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日本のテルミンの未来が危ない。

知る人ぞ知る「テルミン」。
ロシアの物理学者 レフ・セルゲーエヴィチ・テルミン博士が1920年に発明した世界初の電子楽器。

それがテルミン。

ちょっとした縁で、さまざまなテルミンを所有している方にそれらを見せてもらえることになった。その数 30 種類以上。

見せてもらえただけではない。

シンセサイザーでお馴染みのモーグ社が、電子楽器「テルミン」生誕100周年を記念して2020年に発売したモデル「CLARAVOX(クララボックス)」を弾かせてももらえた。

いやあ、実に嬉しかったよ。

実は日本は世界で一番テルミン奏者が多い国だそうで、勢い、テルミンを集めている人たちも多くいるとのこと。

そんな人たち同士で今話題になっていることが2つあると聞いた。
一つは「テルミンが壊れたときの修理」、もう一つは「自身に何かあったときに集めたテルミンはどうなるか」というもの。

テルミンの修理

テルミンという楽器はとても繊細なため、単に電子楽器や電子回路についての知識があるだけでは直せないのだそう。
(テルミンは筐体に塗られている塗料の原材料によっても音が変わってしまうことがあるという。)

テルミンのことがわかっていて電子回路もわかっている人でないと調整できないとのこと。
その「わかっている人」が日本からいなくなってきているらしい。

テルミンを製造・販売していたメーカーの一つに、シンセサイザーでお馴染みのモーグ社がある。
かつては日本の代理店をモリダイラ楽器がしており、モーグ社が発売していたテルミンのサポート業務も請け負っていた。それが2013年に代理店業務をやめてしまったとのこと。

その後、同年にコルグ社がモーグの日本代理店を務めることになったのだけれど、コルグ社が言うに、同じモーグ社のテルミンであっても「モリダイラ楽器が販売していたものについてはサポートは行わない」のだそう。

当然、代理店業務をやめてしまったモリダイラ楽器も、自社から販売したテルミンではあってももう代理店ではないのでサポートはしてくれない。

つまり、「モリダイラ楽器から購入したモーグのテルミンは、何かあってもどこにも何もしてもらえない状態」になったのだという。
(ビジネスとしては間違えてないのかもしれないが、心情としてはひどい話だ。)

2013年以降からしばらくは、モリダイラ楽器でテルミンを開発・製造していた元社員の方が個人的に請け負ってくれていたのだそうだが、その方も年齢を経て身体の問題も出てきて修理が難しくなってきたという。

その方に何かあったら、信頼してテルミンを任せられる人は日本からいなくなるらしい。

今、日本国内でテルミンを直したい人は、時間がかかってもよいからその方に頼むか、それができる他の人をどうにかして国内で探すか、海外にはまだテルミンを直せる人がいるらしいのでその方と連絡を取って日本に来てもらって直してもらうという状態だという。

「直せる人がいなくなる」だけではない。部品の供給も深刻な状態らしい。
国内で現存する最古のテルミンには、すでに製造中止になっている真空管(RCA 社の真空管 UX120, UX171A)が使われていてそれが手に入らなくなってきている。

今のままでは最悪の場合は、国内にあるテルミンはどれも音が出ないままになる可能性があるというわけ。
世界で一番テルミン奏者が多い国としては由々しき事態だ。
(実際に、世界の美術館や博物館に展示されているテルミンの中には、展示されているだけで音がもう鳴らないものもあるという。)

所有するテルミンの行末

2つ目の「自身に何かあったときに集めたテルミンはどうなるか」問題。

これはテルミンに限らずなんらかのコレクションをお持ちの方なら誰でも抱える問題であろう。
それがなんであれ、興味関心がない人にとっては、残されたコレクションはただのゴミでしかないから。

今年の5月、1920年から1970年にかけてのアメリカのギター製作の黄金時代に作られた500本以上の最高級ギターの寄贈をコレクターから受けたとメトロポリタン美術館が発表していた。
https://www.metmuseum.org/ja/press-releases/guitar-gift

そのことを伝えて、「そういうこともあるので、メトロポリタン美術館に話をもっていったら歴史的に貴重なテルミンだとわかれば受け取ってくれるかもしれませんよ」と話しておいた。

さて、今後日本におけるテルミンの未来はどうなるか。心配である。

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