Face Blindness (相貌失認)を知ってますか。
Face Blindness (相貌失認 : そうぼうしつにん)は、『TBSニュースバード CBS 60 MINUTES』で扱われていた話題。
相貌失認のひどい人は、顔を記憶したり、認識できない。どんなに親しく、近しい人であっても。
番組によれば、他人どころかひどい場合は自分の顔も覚えられない。
鏡に映っているのが「人」だとはわかっても、それが自分の「顔」だとはわからない。鏡に映っているこの人は誰だろう? となるのだとか。
友人、家族も会うたびに初対面になってしまう。いま話していても、ちょっと相手が席を立ってもどってくると、もう誰だかわからないことがあるという話も番組内でされていた。
そういう人たちは、知能や記憶力、運動能力、言語など何も問題なく、社会生活も普通におくれるのに、ただ「顔」だけを認識できないのだとか。
そのせいで、人間関係に悩み、友人を失い、つらい人生を送ってきた人もいる。
そりゃそうだよな。親しい人から「はじめまして」とか言われると、誰だって気分を害するわな。
でも、「はじめまして」と言った人のうっかりや、失礼さや薄情さ、他者への関心の低さではない。何も悪くない。「顔」を覚えて見分ける力が発揮できないだけ。
番組では、有名人の顔写真を加工して、丸い枠のなかに額からアゴまでが見えているもの(髪型や髪の色、体型や服装など顔以外の情報が得られない)を作って相貌失認の人に見せていた。
彼らは、どんな有名人でもその人が誰かを言い当てられない。日本人でも顔が売れている人だと――オバマ大統領、ジョージ・クルーニー、トム・クルーズ、ジョン・トラボルタなどなど。さらには、見せている写真のなかに、当人のお子さんの写真も混じっていたのだけど、やはりわからなかった。
相貌失認の人たちは、それでもなんとか工夫しながら相手が誰かを知ろうとしている。声の調子や、髪型、服装、アゴや耳の形など顔の一部分を覚えようとして。
重度の相貌失認だと診断されたけど、似顔絵の仕事をしている男性が出ていた。彼は、顔写真の上に碁盤の目のように線を描いて、区切られた1つひとつを部品として覚えて、絵を描いているのだそう。
彼に有名人の写真を見せると、正確に当ててみせる。その様子からは重度の相貌失認とはわからない。でも、写真を言い当てるときは、「そのアゴは、○○ですね」など、記憶の鍵になっている部分をもとに誰なのかを判別しているのがうかがえる指摘の仕方をする。
相手が誰であるかを判別する努力をしても、手がかりにできるのが、声や髪、服装なので変わってしまうとどうにもならないのだとか。
番組に出ていた1人の男性は、目の前で友人の女性と話ながら、最初は束ねていなかった髪を後ろで束ねたり、ほどいたりしてもらったのだそう。彼女が髪を束ねるたびに、誰かわからなくなり、ほどくと髪型から誰なのかがわかる。束ねる――誰かわからなくなる。ほどく――誰かわかる。束ねる――また誰かわからなくなる、の繰り返しだったとか。
興味深かったのは、相貌失認の人が顔を見たときにどんな風に感じているのかを、相貌失認でない人が感じる実験。
先のように、丸い枠のなかに額からアゴまでが見えている顔写真を、今度は天地をひっくり返してならべたものを、番組の司会者が見せられる。
さすがにテレビ番組の司会者だから、簡単にどの写真が誰なのかを言い当てていくけど、最後の1枚が誰かわからない。
天地をもとに戻してみると――その顔写真は司会者の娘さん。司会者は「ショックだ」としばらく声がでず、「相貌失認の人たちはこういう感覚をいつも味わっているのですね」と。
相貌失認が問題視され始めたのは、戦争で頭にケガをして帰国した人たちが家族の顔がわからなくなる症状をみせたことから。けれど、実は先天性の人たちがいるとわかってきたのは、それから数十年後だとか。
アメリカでは「50人に1人」の割合で相貌失認がいると言われているらしい。世界の全人口の2%だとも。
相貌失認だとわかっていなくて、顔が覚えられないのは怠慢ややる気の無さだと思いこんだり批難されたりで、人間関係に悩んでいる人もたくさんいるのだとか。
相貌失認――僕は初めて知った。
もしあまりに他者の顔を覚えられない人が身近にいたら、覚えられないことを責めるのではなく、彼らの困惑や苦しみを理解しようとするのも必要かも。
あるいは自分がほんとに人の顔を見ても誰かわからないのなら、相貌失認を疑ってみたほうがよいかも。
■CBS 60 MINUTES
Face Blindness: When everyone is a stranger (March 18, 2012 7:51 PM)
Face Blindness, part 1 (March 18, 2012 4:45 PM)
Face Blindness, part 2 (March 18, 2012 4:46 PM)
■上記リンク先で紹介されているサイト
Face Blindness に関する情報
http://faceblind.org/
『レナードの朝』などの著者として知られ、自身が相貌失認であることを告白している神経学者オリバー・サックス (Oliver Sacks) 教授のサイト
http://www.oliversacks.com/
| 固定リンク
コメント