このあいだテレビでやってた『崖の上のポニョ』を見た。
劇場で見てきた知り合いから「ぜひ見て欲しい」と力説されたけど、当時は気乗りしなくて見なかった。だって、どう見たって人面魚なんだもの。
宮崎駿とかジブリとかそういうのを全部取っ払って、冷静に落ち着いて全く初めてと思ってあの絵を見てみていただきたい。――髪の毛が生えてるし。気持ち悪いし。
ということでお金を払ってまで見に行っていなかったのだけど、まぁテレビでやってるなら見ておいてもいいかと見てみたしだい。
そしたら――やっぱり人面魚なんじゃん。
登場人物の1人がそう言い切ってるのに驚いた。同時に、「宮崎駿。やっぱ凄い!」とも思った。
だって、誰もが気になっているはずのこと、人によっては言ってはいけないのだろうなと気にして言わないようにしているであろうことを、自らの手によるキャラクタにはっきりと言わせちゃうんだから。
人面魚宣言(どんな宣言だ?)だけでなく、全体的にとんでもないストーリーだった。良くも悪くもというか。
たとえば、「いろんな不思議なことが起きてるけど、今はいい」って一言で、ストーリーのなかで起きているあらゆる事象の存在をとりあえず肯定してしまうんだから。
海面が人類滅亡に違いない上昇をみせてもだ。町の公園でナガスクジラと思われるクジラが水面に向かって縦に泳いでいける深さになってるしで。
でもファンタジーなんだから、それでいいんだろうな。
妻が以前、絵本の読み聞かせボランティアをしていたけど、とてつもない大きな虫が町や人々を食っちゃって何もかもなくなってしまうという話しがあった。食っちゃうというか飲み込むのだ。でもって、虫の体内には、食われた町も人もみな元のまま存在しているというオチ。
ファンタジーの手法としてはそれでいいのだな。
でも、それでもどうにも気になることがある。さっきふれた人類滅亡に違いないほどの海面上昇。それをもたらした起因はポニョなのだ。
もう1人の主人公である少年に会いたいが一心で、ポニョが人間になって地上にやってくる。その過程で起きたのが未曾有の天変地異。なんせ、月が地球に引き寄せられているのだから。そのままだと大衝突という "アルマゲドン" 状態。ブルース・ウィルスを早く呼べ。エアロスミスは歌わなくていいのかというひっちゃかめっちゃか状態なのだ。
なにげにディザスター・ムービーになってるし。
ポニョ。期せずして人類の敵!
そんな生命体をのんびりとみんなで待ってていいのか人類? まぁ、人々はポニョと天変地異との相関関係をいまひとつ深く理解できていないようだったから、いいと言えばいいのだろうけど。
これがハリウッド映画なら、CIAとか国土安全保障省とかが指揮を取って、大量の武器弾薬、兵士を投入。
原潜は潜行し、航空母艦は波を切り、F-15E ストライクイーグルは出撃。ヘリからロープで降下するわ、水陸両用車で海上から陸地へ侵攻し、 "Soldiers!! Move!, Move!, Move!" とか叫んで走り回るに違いない。
"BlueSnake!? BlueSnake!? RedTiger から BlueSnake へ。どうした。応答しろ! 何があった?"
"対象を発見しました。コードネーム 【PON-YO1】 を確認! ただちに排除します!"
"待て!! 民間人だ! 民間人が対象と一緒にいます!!"
"構わん。実行せよ! これは命令だ! 大統領の作戦許可は取ってある! 民間人ともども【PON-YO1】 を排除せよ! 国家の緊急事態だ。多少の犠牲はやむを得ん!" とかなるところだ。
さらにさらにだ。僕に言わせればこの映画には未来の救いがない。
なんだか映画は「よかったね」的に終わっていくのだけど、ポニョの父親(母もいる。両親が出てくるのは知らなかった)の野望はどこへやらだ。まぁそれも人類は誰も気がついていないのだから仕方がないと言えばそれまでなんだけどね。
天変地異の起因はポニョだけど、本を正せばポニョの父親が100年ほど前から準備してきたことが発端なのだ。 "忌まわしい人類の歴史は終わるのだ" とか言いながら。
ポニョ父。人類滅亡を画策していた節がある。人類は誰もそのことを知らない。
未来の救いがないとはそういうこと。ポニョ父がそのままなのだから、ヤツは再び始め出す可能性が残っているのだ。人類滅亡の準備を。
もちろんポニョ父はもう何もするつもりはない可能性もあるが、はっきりと「止めた」と確認できたわけでもない。
だいたい、今回の一件はたまたま人間側とポニョ父の利害が一致しただけなのだから。月が衝突すれば地球が無くなる。そうなれば、ポニョ父の計画も意味はなくなる。人間の存在はどうであれ、地球が無くなるのはポニョ父の望むところではない。制御が効かない事態になってしまったんだから、とりあえずは事態の沈静化を図ろうというのがポニョ父の思惑なのであって。
ポニョはやっぱり人面魚だったという話だけではなくなってしまった。
『崖の上のポニョ』――己の望みを満たすために人体を欲した人面魚が引き起こした大災害を背景に、人類滅亡への序章を描いた作品であるかもしれない。
いやぁとんでもなく怖い映画だ。
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