無貌伝~夢境ホテルの午睡~
望月守宮(もちづき やもり)の『無貌伝~夢境ホテルの午睡~』(談社ノベルス)を読了。
人ではない生き物「ヒトデナシ」が闊歩する仮想の国、でも限りなく大正~昭和初期日本な雰囲気の国での出来事。
人の姿をもったヒトデナシ。人間の「顔」を奪うという「無貌(むぼう)」は、いったい何をもくろんでいるのか。
迎え撃つは、警察組織はもちろんのこと名探偵の誉れ高き「秋津承一郎」。
面白かった。
ホテルが見る夢に誘われる人々が出会う夢の出来事。水中で呼吸ができたり、呼べばホテルのボーイがどこにでもすぐ現れるなどなど、夢の中の出来事の描き方がいいなぁ。ほんとに夢を見ているよう。
表現に筆力が足りないという感想を残している人もおられますが、僕としては作者の表現力の高さがうかがえる作品と言っていいような気がしています。
はてさて、本作を読まれた他の方は、作者の表現力の量をどう捉えになられたものか――ちょっと興味があります。
前作では、無貌のせいで自信を失い人生も諦め、探偵としても人としても終わっていた秋津が、抱えている問題はなくなりはしないもののあらためて無貌を追うことを決め、人生の舞台に戻ってくるまでと、秋津とちょっとしたいざこざがあった古村望が秋津の助手になるまでが、事件の様子と織り交ぜて描かれていました。
前に書いたけど、前作は僕としては今ひとつな感じだったのですが――今作は面白かった。どうなるんだろう? どうやって話しが繋がっていくのだろう? と、引き込まれる。
なぜ前作が今ひとつな感じがしたかを振り返ってみると、僕の読み方が間違えていたような気がします。練り上げられたロジックとか、驚きのトリックとか、論理的な謎解きとかいったものを期待してたせい。
無貌伝はそれらを期待する作品ではないというのが今の僕の感想。これは、得体の知れない世界観に酔って読む、得たいの知れないダークファンタジーなんだと思います。
それと、たぶんだけど、「さぁ、どんなふうに楽しませてくれるつもりかな」とある意味で受け身になっていると楽しめない作品ではないかと。「この世界を楽しもう」と意識した人だけが、この作品を楽しめるような気が僕にはします。
それは良いことか悪いことかは僕にはわかりません。僕には、前作は今ひとつだったけど、今作は面白かったというだけです。
次回作の題名も記されています。『人形姫(ガラテア)の産声』がそれ。
また読むつもりです。
■わかる人にだけわかる話
「○○さんの足が無い」という発言はなかなかぞっときました。
最後の方の「無貌」の発言は、本作の巻数をも意味していると取っていいのかな?
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