3連休を使っての旅行から無事帰ってきました。
今回の旅行の目的の1つは、数年前偶然訪れてその美味しさとリーズナブルさにびっくりしたあるお寿司屋さんを再訪すること。
このお寿司屋さんは、僕の秘中の秘。とっておきのとっておき。
以前同じ場所へ旅行したとき、こんなところで美味しいお寿司なんて食べられないだろうなと全く期待せず、でもとにかく寿司が食べたくてなんとなく入ったら大・大正解だったお店。
お寿司は江戸前。一品々のネタにほどこした一手間のおかげで本当に美味しい。
たとえば、ここの小鰭は全く臭みがしない。ネタをかなり丁寧に扱っているお店でも、小鰭はほとんどに気にはならないけれど、ほんのわずかにふっと臭みを口に感じることがあります。でも、こちらの小鰭は全く無し。
臭みがない小鰭の理由は、小鰭を扱うときに水を使わないんですって。水を使うと臭みがでるそうです。おやじさんは、話し好きな愛想のいい人。寿司の話になると止まらなくなる。
最初に「今日のお勧めは何かありますか」と尋ねると、カツオのいいのが入っていると言う。
じゃぁとそれを頼むと、これがまたなんとも言えないよい食感のカツオ。ちょっと火を通してタタキのようにしてあるのですが、水っぽくない。僕があまりいいものを食べてないせいでしょうけど、カツオのたたきって、口のなかでちょっと水っぽい感じがするものが多い。でもこちらのネタは全然そんなことがなくて、カツオの味と香りがしっかりと楽しめる。
続いて、ヒメマス。このヒメマスもマスの香りが口のなかでちゃんとしてとても美味しい。味だけでなく香りでも楽しめる。
さらに、お勧めのものが「北海道利尻のウニ」。利尻ではウニの保護のため、年に3ヶ月だけが漁期で、あとはウニが育つのを待つために漁を休むのだとか。漁期中であっても小さいウニは海へ帰すという気の配りよう。そうやって「利尻のウニ」を守っているのだそうです。
この利尻のウニが本当にきれい。表面がつやつやと光って、店内の照明が小さく反射しているのがわかる。口に含むと、ふわっと溶けて「あれ? ウニがどこかへ行っちゃった?」っと2人でびっくり。同時に深みのある甘みが口いっぱいに広がる。本当にいいウニは品の良い深い甘さがあるのだとわかった一品。
何よりも数年前も今年も変わらず美味しい味で僕らを楽しませてくれたのは、干瓢と海苔。
海苔は有明のもの。海苔巻きを巻ききらないでちょっと端を残して渡してくれたおやじさん。「海苔の端を、香りをちょっとかいでみてください。それから巻いて食べてください」と一言。勧められる前にやってみると、すごい海苔の香り。
もっとも、おやじさんが渡してくれた海苔巻きを自分の方へ持ってくる間にも、すでに海苔のいい香りが感じられていたので、それに鼻を近づけてみたらもううっとりとするような香り。
これが有明の海苔なんですよとおやじさんがにっこり。
このころになるとおやじさん、ずいぶんと上機嫌になってきて次々とお勧めをあげてくる。「お嫌いでなければ、○○○なんてのもありますが、これも美味しいですよ」とか、ちょっと謙虚に勧めてくれる。ここまでで美味しさにやられてしまっていたので、「では、それをお願いします」とこちらも即答してしまいました。
そしてこの前に来たときに僕が一番驚いた「極上の干瓢」。
これ比喩ではないです。みなさん、干瓢に「極上」とか「特上」とかクラスがあるって知ってました? 僕はここのおやじさんからその話を初めて聞きました。ここのお店が使っているのがその「極上の干瓢」。
朝の4時から数時間乾燥のために外へ出すのですが、そのあとは部屋へ戻してしまう。だいたい世に出回っているいい干瓢は、この極上のあとに乾燥させたものだとか。極上の干瓢は、そうやって朝の4時から数時間だけ乾燥させて作るので年間生産量が少ないのだそうです。
50年続けているお店だからこそ、干瓢も「極上」を取り寄せることができるのだとか。
お醤油で煮た飴色も美しい。この干瓢を煮るときは、最初のもどすときに茹でるために水を使うだけで、味を付けるときには水は一切使わないで、水分は生一本のお醤油のみなんだそうです。
干瓢というと噛んでもうまく切れずに、巻ものの中からずるずると付いて出てきてしまうというイメージがあるかと思いますが、この干瓢は軽いひと噛みでほぐれるように切れる。
数年前に来たときも食べていたので、干瓢のうまさは知ってはいたのですが、僕らはそのことにはふれず、おやじさんもたぶん数年前に1度ふらっと寄った客のことなど覚えてないでしょうから、新しい気持ちで話を聞くこともできました。
(僕らが干瓢を頼んだときのおやじさんの表情が忘れられない。おやじさん、嬉しそうな笑みを浮かべて、「オツ? いま干瓢っておっしゃいましたね? よくぞ言ってくださいました」という風。)
最後の締めは、これまた以前のときにも感動したおみそ汁。
こちらのお味噌は自家製。味噌蔵をもっておられて、その蔵の土間で3~5年寝かした味噌を使っているそうです。味噌が全くの自然のお味で、風味が豊かなのでよけいな味付けは無し。少しだけカツオ出汁で入れてくれるおみそ汁。いい意味でふわっと土の香りがするおみそ汁。普段食しているみそ汁が、味噌の味が強すぎることがわかります。
そして、そして、こちらのお店は味だけでなく、お値段も驚き。おやじさんのお勧めのものだけを次々と頼んで、ビールと冷酒を1本ずつあけて、締めて2人で9千円弱。質のよいネタを食べているのになんというリーズナブル。(頼めば、一巻ずつ出してくれるというのもリーズナブルさの秘密の1つ。)
こちらのお客様には、運転手付きのベンツを外で待たせて食事をするという方もおられる。しかも、10年以上の常連さんだとか。珍しいものや美味しいものを楽しむために、金銭的には不自由せず舌の肥えている人たちが通い詰めるぐらいだから本当に美味しいお店なのだろうなと思いました。
しかも馬鹿高いのではなく、最高のものをびっくりな価格で食べられる。このお寿司屋さんにはいつまでも存続して欲しいなぁ。
でも、息子さんは後をつがなかったよう。この味もおやじさん一代で終わりなんだなと思うと、とても惜しい気がします。あの極上の干瓢巻きやおみそ汁が無くならないようにできないものかしら。
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